吉原、洒落本、狂歌師、浮世絵、芝居、役者を編集することで、江戸文化を編集した蔦屋重三郎という男・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3558)】
【読書の森 2025年1月1日号】
情熱的読書人間のないしょ話(3558)
のんびりと、テレビで初日の出を。
閑話休題、『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』(田中優子著、文春新書)は、松岡正剛流の「編集」をキーワードに、蔦屋重三郎の編集力にスポットを当てています。
重三郎は、吉原を編集し、洒落本を編集し、狂歌師たちを編集し、浮世絵を編集し、芝居と役者を編集することで、江戸文化を編集したというのです。
重三郎は、北川勇助という青年を喜多川歌麿に育て、能役者・斎藤十郎兵衛を東洲斎写楽に変身させ、北尾政演を山東京伝として活躍させました。重三郎の店には、恋川春町や大田南畝(四方赤良)、葛飾北斎が出入りし、十返舎一九がアルバイトし、曲亭馬琴が番頭として働いていました。
編集者は、自分が何を見たいか、何を読みたいか、の視線が明確でなければならない、時代の価値観の型をほぐし、反対側からも横からも見る行動を可能にせねばならないのです。
「蔦屋重三郎は自分の富と名声や、(自分の店)耕書堂の継続のために編集したのではない。江戸文化の活気に人が集まり、(狂歌の)連を形成し、互いの関わりの中で、さらなる創造がなされる。そういう場を作り出すために、編集したのである」。
著者は遊廓の重要性に目を向けています。「貴族でも上級武士でもない庶民が伝統文化を知るためには、遊廓は絶好の場所だったろう。遊女は伝統文化を日夜修業し、客たちは伝統文化と古典の教養をたずさえてやって来るからである。蔦屋重三郎が吉原で生まれ育ったことには、大きな意味があったのだ」。