柚月裕子が自分の過去を振り返ったエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3791)】
アオモンイトトンボの雄(写真1)、ハグロトンボの雌(写真2~4)、シオカラトンボの雄(写真5)、オオシオカラトンボの雄(写真6)、キマダラヒカゲ(写真7)、ショウリョウバッタ(写真8)、アオサギ(写真9)をカメラに収めました。
閑話休題、柚月裕子が自分の過去を振り返ったエッセイ集『ふたつの時間、ふたりの自分』(柚月裕子著、文春文庫)は、率直さが好感の持てる一冊です。
●本に親しむ環境で育った。両親はふたりとも本が好きな人だった。・・・両親は2011年に起きた東日本大震災による大津波で命を落とした。・・・父の思い出も、父が愛読していた本の手触りも、自分の中には残っている。思い出も本の記憶も、決して死ぬことはないのだ、と思う。
子供が本好きになるか否かは、親の影響が非常に大きいと思います。書棚に入り切らぬ雨後の筍のような本たちに囲まれ、家にいる時は常に読書していた父を見て育った私は、自ずと幼稚園時代から本好きになりました。
●季節は秋。日暮れははやく、もたもたしている間に夜になった。右に左にうねる山道を車で進んでいった先に、鶴の湯はある。・・・露天は混浴だった。・・・乳白色の湯に肩までつかりながら、空を見上げた。薄墨を掃いたような夜空には、満月が煌々と輝いていた。・・・また迷ったらここに来よう。ずっとかわらない景色が、真に私が描きたいものを思い出させてくれる。
私が秋田の乳頭温泉郷の鶴の湯に泊まったのは冬であったが、雪に包まれた露天風呂の頭上では、やはり月が輝いていました。私にとっても、また訪れたい温泉第1位です。
●清張作品は、歳を重ねるごとに重みを増す。生きるなかで、清張がテーマにした、人間が根本的に抱える問題と、望むと望まざるとにかかわらず対峙するからだ。人生の闇に包まれたとき、清張作品は胸に響く。清張の小説には、苦境に耐え、必死にもがき、あがく人々が出てくる。彼らを見ていると、生きることより生きようとする姿がなにより尊い、と思えてくる。小学生のときに『砂の器』を知った少女は、成長し、40歳で作家デビューをした。
柚月が小学生のときに見たのは映画『砂の器』で、小説『砂の器』を読んだのは高校時代だと書いているが、この清張評の素晴らしさには脱帽です。