榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

1623年に刊行されたシェイクスピアの最初の作品集の秘密・・・【情熱的読書人間のないしょ話(4007)】

【読書の森 2026年3月2日号】 情熱的読書人間のないしょ話(4007)

ChatGPTの能力には驚くべきものがあるが、動植物の識別・同定は苦手なようで、この写真ではオサムシ科のハリアリオサムシ類あるいはコブスジアオゴミムシ類とまでしか言えないとの回答だったので、昆虫に造詣の深い和田猛さんに尋ねたところ、マルガタゴミムシ(写真1、2)と判明しました。サクラソウ(写真3)、ウケザキクンシラン(写真4)、ローズマリー(写真5、6)が咲いています。

閑話休題、『ビブリア古書堂の事件手帖(7)――栞子さんと果てない舞台』(三上延著、メディアワークス文庫)では、1623年に刊行されたウィリアム・シェイクスピアのファースト・フォリオを巡る秘密に、並外れた古書の知識と洞察力を有するビブリア古書堂店主・篠川栞子が迫ります。店員で栞子と恋仲の「俺」・五浦大輔も、ほんのちょっぴりだが手伝います。

ファースト・フォリオとはシェイクスピアの戯曲36篇を集めた最初の作品集です。フォリオというのは二つ折り本という意味で、一枚の紙を二つ折りにした判型の本ということです。

シェイクスピアが所属していた劇団の同僚だったジョン・ヘミングスとヘンリー・コンデルが追悼のために企画したと言われています。オークションに出品されれば、数億円で取り引きされるであろう稀覯本です。

「たぶん頭はフル回転しているのだろう。俺は本の秘密について考える時の彼女(=栞子)をよく知っている」。

「とにかく見てみたいとその目がはっきり語っている。俺には彼女の様子が気がかりだった。世界的な稀覯本についての謎に迫っているのだから当然かもしれないが、普段よりも古書に対して前のめりに思える」。

「一つだけどうしても知りたいことがあります。長年のわたし(=栞子)の疑問です・・・本当に中身を見ることなく、この三冊の真贋を見分けられるのかどうか」。

「本に残った手がかりから、人間の内面を読み取る才能。著者はもちろん、製本した人間、売った人間、そして所有した人間の内面を・・・あの店(=ビブリア古書堂)を漫然と経営しているだけでは、才能の開花は遅れてしまう。それは不幸なことだと思って」。これは、栞子の母・篠川智恵子の台詞です。

私は本を読むことが好きなだけで、稀覯本とかには全く興味がない人間なので、本書に登場する古書コレクターたちの稀覯本に対する凄まじい執着ぶりに圧倒されました。お~、怖(こわ)!

本筋からは逸れるが、栞子の説明のおかげで「撞着語法」という言葉を知りました。「オクシモロン・・・撞着語法といって、矛盾した内容を示す表現で、シェイクスピアの戯曲ではよく使われています。『マクベス』の『きれいはきたない、きたないはきれい』が一番有名でしょうか。『わたしはわたしではない』は、『十二夜』や『オセロー』に出てきます。『トロイラスとクレシダ』にも似たような表現がありますよ」。

「『晩年』などの古書に関する謎に止まらず、登場人物たちの人間関係も謎だらけです。そこで、自分で書いた相関図を見ながら、読み進めた次第です」と『ビブリア古書堂の事件手帖(6)――栞子さんと巡るさだめ』の書評に書き付けたのを三上延が見たわけはないが、本書には、人間の欲望が渦巻く生々しい人間関係の全体像を示す相関図がちゃんと掲載されています。