榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

本書を読んで、山中伸弥をますます好きになってしまいました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1280)】

【amazon 『走り続ける力』 カスタマーレビュー 2018年10月25日】 情熱的読書人間のないしょ話(1280)

落日が迫り、西方の空は極楽浄土かのように金色に輝いています。満月が見つからないので諦めて原稿に取りかかった時、月を探しに行ってくれた女房から、50m先の松のすぐ上に赤い大きな月が出ているわよとの報告を受け、慌てて駆けつけました。キクが黄色い花、赤紫色の花を咲かせ始めています。因みに、本日の歩数は10,346でした。

閑話休題、『走り続ける力』(山中伸弥著、毎日新聞出版)を読んで、山中伸弥をますます好きになってしまいました。

山中が好きな言葉は、「塞翁が馬」と「おかげさま」と語っています。「予想とは違う結果が大発見につながったり、失敗だと思った実験がその後の研究に役立ったりすることもよくあります。iPS細胞の開発過程でも、一度失敗だと思った実験で生まれたマウスが、iPS細胞ができたかどうかの確認に役立つことが判明しました。言わば失敗のおかげでiPS細胞の開発は成功したのです」。

研究以外の時間に、わざわざ我慢してまでマラソンを走る著者のような研究者が、なぜこんなにたくさんいるのでしょうか。「日々練習し、マラソンを完走するという経験を積むことによって、『努力を続けていれば、研究でもいつか完走して成果を出せるはずだ』と心の底で自分を励ましている研究者も多いのではないかと思います。日々の努力、しっかりとした計画と着実な実行、不測の事態への対応、多くの方からの応援のありがたさ――。マラソンから学んだこれらの教訓を生かして、今後もiPS細胞の臨床応用という『ゴール』を目指し、しっかりと走り続けます」。

「週5日は1時間のランニングを欠かさず、週約50キロ、月約200キロを走る。海外出張のときもランニングシューズを持参して走る。雨が降っても走る。『研究で負けるというのは論文発表で先を越されること。たとえそうなっても、あきらめずにゴールまで走り抜き、きちっと論文や特許を出していく。研究者にはそういう使命がある』」。研究者としてのこういう姿勢は、いかにも山中らしいですね。

著者にとって、研究とは何なのでしょうか。「常識を覆したり、皆が信じていたことが違ったり、そういうことにワクワクする。生命科学の研究は進んでいるが、まだ生命活動の1割程度しか分かっていないと思う。残りの謎の部分をのぞき見ることができる仕事が、私たちの研究だ。今まで分かっていなかったことが分かるという『ドキドキ』が積み重なり、ある瞬間に世界が一変する。『ドキドキ』は基礎研究から生まれるものであり、基礎研究は本当に大切だ」。

私が一番関心を抱いている疾病、ALSにも言及されています。「CiRAで井上治久教授たちが、全身の筋肉が衰えていく難病『筋萎縮性側索硬化症』(ALS)の治療に慢性骨髄性白血病の薬(=ボスチニブ)が使える可能性を突き止めました。この薬をALSのマウスに投与すると、進行が抑えられたのです。つまり、神経細胞の細胞死が抑えられることが分かりました」。このiPS細胞を使った治療薬探しにおける新たな成果が確認されたのは、2017年5月のことです。

著者は、研究の継続性、後輩の研究者たちに、常に思いを馳せています。「私自身はあと10年ほどで定年退職になりますが、恐らくその頃がさまざまな研究が一番佳境を迎える時期になると思っています。だから、あと20年、30年と、この研究所がサステナビリティー(持続可能性)を持って運営していけるようにしなければならないと考えています」。

研究者として、今関心があることは何かと尋ねられて、こう答えています。「私が米留学時代に生まれて初めて見つけた遺伝子『NAT1』(ナットワン)が気になっています」。

著者のように、実力と人間性を兼ね備えた研究者が同胞であることを誇りに思います。