榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

井波律子が30年に亘り書き続けてきた書評の数々は、読み応えがある・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1573)】

【amazon 『書物の愉しみ』 カスタマーレビュー 2019年8月8日】 情熱的読書人間のないしょ話(1573)

キバナコスモスの橙色の花、黄色い花が風に揺れています。テッポウユリが白い花を咲かせています。サトイモの葉の縦を測ったら、70cmもありました。因みに、本日の歩数は10,479でした。

閑話休題、『書物の愉しみ――井波律子書評集』(井波律子著、岩波書店)には、井波律子が30年に亘り書き続けてきた書評が収められています。

幸田露伴が、このように評されています。「幸田露伴は生涯を通じて書物とともにあった大読書家である。・・・露伴が興のおもむくまま読み漁った書物は想像を絶するほど広範囲にわたる。漢籍では儒教の経典・仏典・道教書・神仙道の書から、歴代詩人の詩文集・筆記(記録・随筆)・古典白話小説・元曲や明曲(明の戯曲)と、ありとあらゆる分野を網羅する。また和書では『古事記』『日本書紀』から芭蕉や西鶴まで、これまた縦横無尽に読み抜いている。このほか趣味の釣りや将棋の書もおさおさ怠りなく読んでいるのだから、驚くほかない。読書を通じて練りあげられた博覧強記こそ、広く深い海のような、あるいは鬱蒼とした森のような、露伴文学を作りあげたといえよう。・・・露伴は大読書家だったが、蔵書家でも愛書家でもなかった。転居や疎開のため三度も蔵書を売って大整理しているし、ふだんでも本屋が本を届けてくると、不要不急のものはざっとめくりメモをとると、すぐ払い下げて別の本を持ってこさせた。こうしてドンドン読んでは手元から離したのである。露伴は東京の下町育ちの人間にままある合理主義者でもあったから、『積んどく』の趣味など薬にもしたくなかったのだろう。少年時代から、昭和二十二年、八十一歳でこの世を去るまで、露伴はケチな所有欲とは根っから無縁な、まことにきっぷのいい読書三昧の生涯をつらぬいた人であった」。何とも羨ましい読書三昧の生涯です。

中野美代子著の『西遊記――トリック・ワールド探訪』の書評によって、『西遊記』の意外な面を知ることができました。「表面的には濃厚な仏教的色彩に塗り込められた『西遊記』の物語世界が、一皮むけば一から十まで、いかに道教的概念を骨子として組み立てられているか、著者は快刀乱麻を断つごとく明快に論証してゆく。こうした論証を踏まえたうえで、先行する資料を集大成し、世徳堂本『西遊記』を著したのは、おそらく道教の『煉丹術師グループ』であり、三蔵法師の『西天取経』の旅は、『煉丹』のプロセスの比喩であろうと大胆に推定を下す。スリリングな論旨の展開は、まさに著者の独擅場というほかない。世徳堂本『西遊記』がトリック・ワールドなら、その謎を解明する本書もまたトリック・ワールド。『西遊記』世界を知り尽くした著者ならではの、魅力あふれる一冊であり、これを読めば、『西遊記』に対する見方が変わること、請け合いだ」。ここまで言われて、同署を読まずに済ますわけにはいきません。早速、私の「読むべき本」リストに加えました。

アガサ・クリスティー、ジョン・カラン著『アガサ・クリスティーの秘密ノート』も、早速、私の「読みたい本」リストに加わりました。「本書は、クリスティーが残した七十冊余りの創作ノートを克明に解読し、出版された完成作品と比較しつつ、詳細な解説をほどこしたものである。著者のジョン・カランは年季の入ったクリスティーの愛読者・研究者であり、非常に読みにくい手書きで記された膨大な創作ノートと夢中で取り組み、もつれた糸をほぐすようにその全貌を明らかにしたという。・・・カランはここで主要作品に関連するメモを網羅的かつ的確に取りあげ、クリスティーが何年もかけて構想を練りあげ、修正を加えながら作品を作りあげてゆく過程を、みごとに浮き彫りにしている」。

本書で取り上げられている池内紀著『ゲーテさん こんばんは』、宮崎市定著『隋の煬帝』、礪波護著『馮道――乱世の宰相』、前田耕作著『玄奘三蔵、シルクロードを行く』も読みたくなってしまいました。

新聞の書評欄における井波の書評に触発されて読んだ本――鶴見俊輔著『敗北力――Later Works』、ケイト・モートン著『湖畔荘』。堀田百合子著『ただの文士――父、堀田善衞のこと』など――が、意外に多いことに驚きました。