榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

万葉集の官能的な歌はどれも、当時の人々の息吹が感じられる・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1659)】

【amazon 『体感訳 万葉集』 カスタマーレビュー 2019年11月1日】 情熱的読書人間のないしょ話(1659)

山梨県甲州市の恵林寺、山梨市の広瀬湖・広瀬ダムを訪れました。因みに、本日の歩数は12,032でした。

閑話休題、『体感訳 万葉集――令和に読みたい名歌36』(上野誠著、NHK出版)は、当時の和歌作者の心意を重んじる「体感訳」の効果で、万葉人(びと)たちの気持ちが生々しく伝わってきます。

●<よしゑやし 恋ひじとすれど 秋風の 寒く吹く夜(よ)は 君をしそ思ふ>の体感訳は、こうです。「えぇーい、ままよ! 恋しく思ったりなんかもうしない! でもね、秋風が 寒く吹く夜だけは・・・ あなたのことが、恋しくなるの」。あなたのことを吹っ切ろう、吹っ切ろうとしても、どうしても断ち切れない女性の思いが迸っています。

●<さし焼かむ 小屋(をや)の醜屋(しこや)に かき棄てむ 破(や)れ薦(ごも)を敷きて 打ち折らむ 醜の醜手を さし交(か)へて 寝(ぬ)らむ君故(ゆゑ) あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜(よる)はすがらに この床(とこ)の ひしと鳴るまで 嘆きつるかも>。「焼き払ってしまいたい ちっぽけなおんぼろ小屋に 捨てさってやりたい 破れ薦敷いて へし折ってやりたい (アノ女の)汚らしい不恰好な手と 手と手を交わしあって・・・ 共寝をしているだろう アナタのことを思うゆえに あかねさす 昼はひねもす ぬばたまの 夜は夜もすがら この床が ひしひしと鳴るまでに (私は悶え!)嘆いてしまう」。恋敵の女の家に火を放ちたい、床で睦み合っているあなたと恋敵のことを思うと、この床がひしひしと鳴るほど悶々としてしまうと、男の訪れを待ち侘びる女が歌い上げているのです。

●<君が行く 海辺(うみへ)の宿に 霧立たば 我(あ)が立ち嘆く 息と知りませ>。「あなたが旅行く 海辺の宿にね もしね霧が立ったらだよ 私が都で立ち嘆いている 息だと思って私のことを思い出してちょうだいよ」。遣新羅使として旅立つ夫に、恋しい気持ちを切々と訴える妻。羨ましくなるほど情熱的な恋歌です。

●<魂(たま)合はば 相寝(あひぬ)るものを 小山田の 鹿猪田(ししだ)守(も)るごと 母し守らすも>。「二人のたましいとたましいが通じ合ったなら・・・ 共寝もしましょうものを―― お山の田んぼは鹿や猪が出やすい そんな『シシダ』を見張るように お母さんは私を見張るのよ(マッタク!)」。「相寝る」とは、共に一夜を過ごすことをいい、もちろん、肉体関係を前提とした表現です。お母さんが私の行動をうるさく監視しているのよと、娘は大胆に言い放っています。

どの歌も、当時の人々の息吹が身近に感じられます。万葉集って、堅苦しい歌ばかりではないことが、よく分かりました。