3万年前、私たちの祖先が、どのような方法で海を渡ってきたのかという謎に挑戦した・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1756)】
コーヒーノキの実、バナナの実をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,624でした。
閑話休題、『3万年前の航海の謎を解く――日本人はどこから来たのか? NHKクローズアップ+取材チームの全記録』(NHKクローズアップ+制作班著、徳間書店)は、3万年前、私たちの祖先が、どのような方法で台湾から沖縄に渡ってきたのかという謎に、文字どおり体を張って挑戦した記録です。
この謎を本気で明らかにしようと、国立科学博物館の海部陽介が立ち上げたのが、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」です。「(ホモ・サピエンスが日本列島に移動してきた)3つのルートの中でも、もっとも謎なのが『沖縄ルート』です。・・・沖縄の島々に距離的にもっとも近い台湾(3万年前は大陸と陸続き)からでも、沖縄の島々は小さ過ぎて見えません。さらに難しいことに、台湾と沖縄の間には、世界でもっとも速い海流のひとつ、黒潮が北に向かって流れています。偶然の漂流では北に流され沖縄には到達しないことが研究で確かめられています。つまり、何らかの手段(舟)で意図的に黒潮を横断しなければ、沖縄にはたどり着けないのです。3万年前のホモ・サピエンスが、日本列島にたどり着いていたことは、化石などの考古学的証拠から明らかです」。
最初の挑戦は、2016年に草舟で試みられたが、失敗に終わります。
2度目は、2017年に竹筏舟で挑戦したものの、これも成功には至りませんでした。
プロジェクト開始から6年。3度目となる2019年の挑戦は、丸木舟によって行われました。全長7.5m、重さ350kg、「杉の女神」から「スギメ」と名付けられた丸木舟に5人の漕ぎ手が乗り込みました。
「(航海中)睡眠と食事をしたら、もうひとつしなければならないことがある。排泄だ。日差しで上がった体温を下げるためか、用を足す時に、漕ぎ手たちは各々海に飛び込んでいた。当然、祖先たちもこうして排泄をしたであろう。しかし、綺麗な便座に慣れた現代人には生理現象だとわかっていても、人によってはなかなか出るものが出ないという。一番上手なのは克さん。海に入ってトイレに座る感覚で大便も難なくできたそうだ。『なぜか流れていく自分の排泄物をみんながチェックしているという。<長い!>とか。何見てるんだという感じですよ(笑)』。『みんなで流れる方向を見ていたんです。潮の流れがわかりやすいですから』と道子さん。航海中のスギメよりも動力を持たない大便の方が顕著に潮に流されるからだ。なるほど、と感心してしまったが、さらに話は続く。『結構きれいなバナナうんこでした。しかも綺麗に浮いて、茶柱みたいに立ってました(笑)』」。
「7月9日午前11時48分。スギメが与那国島に着岸した。45時間10分の旅。・・・前人未踏の偉業と言いたいところだが、前人はもちろんいる。わずか200km、わずか2日間の道のり。せわしない現代ではいとも簡単に過ぎ去ってしまう時空を、ひと漕ぎひと漕ぎ進んでいった。・・・時代を超えて通底するのは、祖先も、海部さんらプロジェクトメンバーも、諦めなかったことだ。海の先を目指し続けた者だけが、海を越えることができる。謎に包まれた私たちホモ・サピエンスの大拡散。世界の人類学にとって、その謎を解くための確かな一歩が刻まれた瞬間だった」。自分たちの力で舟を作り、海を知り、準備し、2日間の苦闘の末に、遂に、沖縄にたどり着くことができたのです。
プロジェクトを振り返って、海部がこう語っています。「今までのイメージと違うと強く感じるのは、この人たち(祖先)は挑戦した人たちだったということです。あれだけのことをやった人たちは、理由が何であろうと、仮に追い出されたから行ったとしても、大変なことです。並大抵ではないと思いますね。そういう意味で、3万年前の人たちはやっぱりすごい。・・・まず、あれだけの困難を乗り越えようと思ったこと、そしてそれを成し遂げたということですね。それは新しいこと、誰もやったことがないことに挑戦したという、まずその段階で尊敬に値するし、それを成し遂げたということもすばらしい。これは移住なので、仲間が賛同して参加してくれないと成り立たないというところも面白い。誰かひとりの強力な発明者がいて、その人がブレークスルーしたというのではなくて、集団で女性も含めてみんながやったことですから。僕らのプロジェクトでも女性がちゃんと漕ぎ手として参加してくれましたが、そういう共同作業が必要だったと思います」。
「(このプロジェクトによって)謎が深まったというか、わかりきらなかったことというのはあります。『3万年前の人はどうやって島に着いたのか』というのは、まだちょっとわからない部分があります。それと新たな謎というのではなくて、もともと持っていた謎だけれど、結局もっとわからなくなったのは『どんな理由で行ったのか』ということで、それは相変わらずわからないですね」。
プロジェクトの全関係者に、心よりの拍手を送りたいと思います。