毎日をただ「何となく」過ごしている人の悲劇・・・【MRのための読書論(175)】
悲劇
『自分の時間――1日24時間でどう生きるか』(アーノルド・ベネット著、渡部昇一訳・解説、三笠書房)は、毎日をただ「何となく」過ごしている人の悲劇を生々しく描き出している。と言っても、小説ではなく、どうしたらその泥濘(ぬかるみ)から脱出できるかが具体的に示されている。
貴重な財産
●朝、目覚める。すると、不思議なことに、あなたの財布にはまっさらな24時間がぎっしりと詰まっているのだ。そして、それがすべてあなたのものなのだ。これこそ最も貴重な財産である。
●誰も時間をあなたから取り上げることはできないし、盗むこともできない。時間に関しては富による特権階級も、知的能力による特権階級も存在しない。時間というこのうえもない貴重品を、思うさま浪費しようが、そのために時間の供給が差し止められるというようなことはない。
あなたの24時間
●あなたは毎日24時間で生活するしかないのだ。24時間の中で、健康も楽しみも、金も満足も得ていかなければならない。また、その中で不滅の魂を向上させていかなければならない。時間を正しく用いること、最も効果的に利用すること、これこそ最も差し迫った切実な問題である。すべては、この時間の利用のしかた次第で決まるのだ。幸福――誰もが到達しようとしてなかなか到達できないあの目標――も、これにかかっている。
●幸福とは肉体的、精神的快楽を得ることにあるのではなく、理性を豊かにし、自らの生活信条にかなった生き方をするところにあると悟ることによって、幸福を自分のものとしているのだ。
充実した一日
●普通の人は、充実した完全な一日を送りたいと思ったら、頭の中で、一日の中にもうひとつ別の一日を設けるようにしなければならない。この「内なる一日」は、ひとまわり大きな箱の中に入っている小さな箱のようなもので、夕方6時に始まって翌朝の10時に終わるのだ。16時間の一日というわけである。【日本においては、夕方5時から翌朝9時ということになるだろう】
●この16時間はすべて、もっぱら自分の心と身体を成長させ、友人を啓発することだけに使うのだ。この16時間の間はすべてのものから解放されている。給料を稼いでくる必要がない。金銭上の問題に気をとられることがない。働かずとも食べていける人と同じような、結構な身分なのだ。これこそ一日に対する心構えでなければならない。そして、心構えがなによりも大切なのだ。充実した人生(莫大な遺産を残すことよりもはるかに大事なことであるが)が送れるかどうかは、こうした心構え次第で決まる。
着手すべきこと
●仕事以外の何かをやるという点に関しては、朝の1時間は夜の2時間に匹敵するのだ。
●「本業」以外に知的好奇心を満足させるものをもて。
●その気にさえなればいつでも「新規まき直し」はできる。
●1日90分は必ず「心をたがやす時間」に使え!
●通勤時間という「誰にも邪魔されない時間」。通勤時間こそ生産的な時間となる。
●まず手始めに、(夕方からの自分の時間の中から)一晩おきに1時間半、何か精神の向上になるような意義のあることを、継続してやってみてはどうだろうかということである。
●情熱と活気に満ちた「一週間」をつくる。
●習慣を変えるにはささやかなことから着手せよ。
●思考を集中するひとときをもつ。
●何か役に立つものに集中すればよい。マルクス・アウレリウスとかエピクテトスの短い一章というのはどうであろうか。
●自分の生活信条と行動との間の「落差」に気づいているか。
●一日の糧を稼いだあとで自分をふり返る心のゆとりをもつ。
●充実した一瞬を生きる。
●「たとえそのために死んでもかまわない」ほどの満足感に浸る。
●かけがえのない「向上の芽」を大切に育てる。
本書の訳・解説を担当している渡部昇一は、「(『自分の時間』からは)どうにか、また、なんとなく歳をとっていくというところから抜けだして、少しでも自分をよりよいものにしてから死のうという考え方がうかがわれるのである」と述べている。
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