ヴェネツィアの離島・ジュデッカ島の国立公文書館、市立図書館で・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2006)】
けたたましく鳴き交わす10羽ほどのカケスの群れに出くわし、1時間以上、粘ったが、辛うじてカケスと分かる写真は1枚だけでした(涙)。カラスウリの実が色づいてきました。キンモクセイ――14号台風のbefore(写真7~10) and after(写真11、12)です。図書館で出会った、本をたくさん抱えた姉弟は、読書が大好きとのことです。
閑話休題、エッセイ集『図書館魔女は不眠症』(大島真理著、郵研社)で、エッセイ集『対岸のヴェネツィア』(内田洋子著、集英社文庫)が、このように取り上げられています。「この作家は初めて読んだが、読書への思いが溢れているようなエッセイ、好感がもてた。・・・(ヴェネツィアで)国立公文書館の『ここは、過去から未来への旅の入り口なんです』と言う男性に出会い、本でぎゅうぎゅう詰めになったキャリーバックを引く図書館員と出会い、市立図書館へと導かれる。その図書館のリーフレットには『読むために生まれてきた』という文言がある」。
私の好きなヴェネツィアが舞台で、図書館がテーマとあっては、『対岸のヴェネツィア』を読まずに済ますわけにはいきません。
期待を裏切らないエッセイ揃いだが、とりわけ心を奪われたのは、「紙の海」です。
「(ジュデッカ島の国立公文書館の)開け放たれた玄関の奥は、昼間だというのに黒々としている。冷んやりと湿った館内の空気が頬を触る。膨大な紙の間に綴じ込まれた過去の呻きや怒り、正義の声、成敗を告げる審判、溜め息が漏れ聞こえてきそうだ。季節風が吹き荒ぶ日は、ジュデッカ島には高い波が迫り上がってくる。公文書館が建つあたりは、最も風当たりの強いところだ。(ヴェネツィア)本島で起きたいざこざは、始末を付けてジュデッカ島に送り込まれる。公文書館は過去を飲み込み、離島の矢面に立ち赤い顔で本島を見ている。公文書館の男性は柔らかなRの音で話し、イタリア人ではないらしい。司書なのか、と尋ねると、『僕は乗船員のようなものです』。うれしくてたまらない、という顔で、『ここは、過去から未来への旅の入り口なんです』」。
「岸壁を打つ波の音を聞きながら歩く。・・・ガラガラと車輪の音がして目を上げると、横を小柄な女性がキャリーバッグを引いていく。荷で大きく膨らみ、相当に重いようだ。車輪が敷石に引っ掛かったらしく、女性は荷物ごと大きくよろけた。走り寄って手を貸すと、半開きになったキャリーバッグの口から数冊、本が滑り落ちた。重いはずである。本でぎゅうぎゅう詰めなのだ。本運びを手伝いましょうか、と訊いてみる。まあ! と目を丸くして恐縮しながらも、『すぐそこなのです。ちょっと珍しい場所ですし、ご見学なさるといいかもしれません。それではお願いしてもよろしいかしら』。躊躇せずに数冊の本を私に渡し、行きましょうか、と歩き始めた。・・・女性は私から本を受け取り、『近くの市立図書館で働いています。アンジェラといいます。同僚がいるから、どうぞ訪ねてみてくださいな』。キャリーバッグを引き、開錠された高い鉄柵の向こうに一人で入っていった。そこは、閉ざされた修道院だった」。
「落ち葉が隅に吹き溜まる階段を上がり、図書館へ入った。・・・キャリーバッグの本の行き先は、修道女たちだった。閉ざされた修道院で暮らすので、外出は禁じられている。図書館は、頼まれた本を定期的に届ける。読み終わった本を引き上げては、次の本を置いてくる。これも、移動図書館には違いない。・・・(アンジェラの同僚の)アンナに誘われ、奥の部屋へ行く。二、三人も座ればいっぱいになりそうなテーブルが中央にあり、座り心地の異なる椅子が窓際や壁に寄せて置いてある。その周囲を木製の本棚が囲む。ちょっとした本好きの家なら、もっと冊数はあるだろう。こぢんまりとしてはいるものの、分類にメリハリが利いている。『水』『船』『島』『海』などの分類札が貼ってある棚を見て、ここはヴェネツィアなのだと改めて感じ入る」。
自分も著者と一緒にジュデッカ島に滞在している気分になってしまいました。