榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

読みたい本が増えるのが、私にとって最上の書評集だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2023)】

【amazon 『中年の本棚』 カスタマーレビュー 2020年10月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(2023)

初めて出会ったクロジの雄(写真1)を撮影することができました。けたたましく鳴いているので雄かと思ったら、何と、雌のモズ(写真2~6)でした。非繁殖期には、縄張り宣言のため、雄も雌も高鳴きするとのことです。コゲラ(写真7)、シジュウカラ(写真8~11)をカメラに収めました。

閑話休題、『中年の本棚』(荻原魚雷著、紀伊國屋書店)は、独特の味わいが漂う書評エッセイです。中年だけでなく、私のような老年者も愉しめる一冊です。

津野海太郎著『歩くひとりもの』と関川夏央著『中年シングル生活』が取り上げられています。「いずれも、独身中年の心情や生活をやや自嘲気味かつ軽妙に綴ったエッセイ集で、わたしが中年本に傾倒するきっかけになった本である。・・・わたしが中年に関する本を読み続けているのも、自分の考え方の偏り、ズレみたいなものを把握したいという気持があるからだ。・・・<いくら結婚していても死ぬときはひとり。理想的と見えたカップルが最後の最後につまずく場合だってある。だから最初からひとりで生きるほうが正しい、というのではない。ひとりで生きざるをえなくなることに脅えながら生きるのがいやだとしたら、まえもってなんらかの手立てを考えておかねばならない>(『歩くひとりもの』)。津野海太郎は老いに備え、『日常の習慣(家事をこなしたり、いくばくかのさびしさを我慢したりする技術)』を『再構成』すればいいと考えている」。早速、『歩くひとりもの』と『中年シングル生活』を、手帳の「読むべき本リスト」に加えました。

中村光夫が論じられています。『現代作家論』に関し、「青年から老年に移り変わる時期、批評家は『自分』とぶつかる。ときには論敵に向けた鋭い批判が自分に向かうことおもある」と述べています。「『想像力について』の『文学と世代』も中年論として秀逸である。若いころは経験が少ない分、人生を理論や理屈で考えがちである。しかし、その理論や理屈が正しいかどうかは、生きてみないとわからない。・・・興味や好奇心を失えば、どんな文学もつまらなくなる。好奇心の持続というのは、中年期以降の切実な問題なのである。『読書についてⅢ』で中村光夫は、『胸中の温気(うんき)』という二宮尊徳の言葉を用いて読書のあるべき姿を説いている。真の読書家とは例外なく書物を蘇らせるに足る『胸中の温気』を持ち、これに自分の心を通わす術を知った人である。書物は、読む人の心の熱に触れないかぎり、文字が印刷された紙にすぎない――というのはいいすぎかもしれないが、本のおもしろさは、受け手に左右される。どうすれば『初心』や『胸中の温気』を持ち続けることができるのか。それが文学中年の課題といえそうだ」。『想像力について』と、「読書についてⅢ」が収められている『青春と女性』も「読むべき本リスト」に加わりました。

「今、自分は阿が読みたいか。どんな文章が好きか。そのふたつの質問に答えるとすれば、星野博美のエッセイということになる。もともと写真家であり、ノンフィクション作家だが、わたしはもっともその本領を発揮しているのはエッセイだとおもっている。エッセイは本業で成功した人が余技で書くもの――なんていうぬるい認識の持ち主は星野博美の本を読んで打ちのめされてほしい。2013年に『戸越銀座でつかまえて』が出るまで、わたしは『銭湯の女神』と『のりたまと煙突』、『迷子の自由』の3冊を読み返していた。どの本も付箋だらけだ。・・・星野博美は(当時のわたしとは)ちがった。風呂なしアパートに住んでいても貧乏でも関係ない。今、自分がいる場所で考え抜き、悩み抜いた言葉は偉大な思想に到達することを教えてくれた。・・・星野博美の文章もすべてありのままに書かれているわけではないだろう。しかしギリギリまでフィクションの部分を削ぎ落とし、本人の思考と文章のズレがほとんどないようにおもえる。・・・星野博美の文章がおもしろいのは、変な先入観を持たず(持たないように細心の注意を払い)、現実に体当たりでまみれている人の言葉だからだ。表通りだけでなく、ごちゃごちゃした路地やわき道を歩いて、道に迷いながら、何かをつかみとる。どんなに遠回りしても、自分のための答えを見つける。・・・中年期に読んだほうがいいとおもう現代の作家は誰かと聞かれたら、わたしは星野博美と答える」。荻原にここまで言われては、星野作品を読まずに済ますわけにはいきません。よ~し、星野の『銭湯の女神』、『のりたまと煙突』、『迷子の自由』、『戸越銀座でつかまえて』、『島へ免許を取りに行く』を一気に読むぞ!

このように読みたい本が増えるのが、私にとって最上の書評集です。