榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

優しさとは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2416)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月28日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2416)

ラクウショウ(写真1)が黄葉しています。シクラメン(写真2)の季節ですね。

閑話休題、『優しい語り手――ノーベル文学賞記念講演』(オルガ・トカルチュク著、小椋彩・久山宏一訳、岩波書店)には、2019年にノーベル文学賞を受賞したオルガ・トカルチュクの受賞記念講演と、2013年の来日講演が収められています。

「わたしたちはなによりも、互いに相反する大量の情報の世界、矛盾する情報が壮絶に争う世界に生きています」。

「優しさは、愛の最も慎ましい形です。福音書や聖歌には登場しない、それにかけて人が宣誓したりしないし、それで表彰されたりもしない、そういう種類の愛です。紋章も象徴も持たず、人を罪にも嫉妬にも導きません。それはわたしたちが、べつの存在、つまり『私』ではないものを注意ぶかく集中して見るときにあらわれます。優しさは、自発的で無欲です。それは感情移入の彼方へ超えゆく感情です。それはむしろ意識です。あるいは多少の憂鬱、運命の共有かもしれません。優しさは、他者を深く受け入れること、その壊れやすさや掛け替えのなさや、苦悩に傷つきやすく、時の影響を免れないことを、深く受け入れることなのです。優しさは、わたしたちの間にある結びつきや類似点、同一性に気づかせてくれます。それは世界を命ある、生きている、結びあい、協働する、互いに頼りあうものとして示す、そういうものの見方です」。

17世紀欧州を舞台に、知恵と幸福の象徴である書物を求めて旅をする人びとの数奇な運命を描いた、著者のデビュー作『書物の人びとの旅』を読んでみたくなったが、残念ながら、翻訳されていないようです。