さまざまな領域で数学が役に立っているのだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3107)】
ヘチマ(写真1~3)が花と実を付けています。大きなカボチャ(写真4)、髪を振り乱した女のような風に揺れるシダレヤナギ(写真5)、人面のような乗用刈り取り機(写真6)をカメラに収めました。
閑話休題、『数学にはこんなマーベラスな役立て方や楽しみ方があるという話をあの人やこの人にディープに聞いてみた本(3)』(数学セミナー編集部編、日本評論社)で、とりわけ興味深いのは、●若島正氏にきく――抽象的思考による詰将棋と文学、●鳴川肇氏にきく――泥臭さの産んだ世界地図、●植田琢也氏にきく――医療と数理科学の間の翻訳者として、の3です。
●抽象的思考による詰将棋と文学
「世の中はふつうは自分が思ったとおりにはなりませんが、詰将棋については、自分が思ったものがそのとおりになるのです。自分の経験上、最初に思いついたアイディアは100パーセント実現できます。けっこう途方もないことを考えても、論理的に矛盾していなければ、かならず実現できる」。
▶アイディアを盤で実現するときは、しばしば抽象的に考えるという。
▶紙の上の盤に抽象的な記号を書きながら考えることもある。
●泥臭さの産んだ世界地図
▶よく知られているように、面積・形・距離を完璧に保った世界地図を作ることは数学的に不可能であり、どんな地図でも歪みが生じる。メルカトル図法では、極に近づくに従い、この歪みがとても大きくなる。地図に生じるこの不可避の歪みを極力小さくしようと設計された世界地図が『オーサグラフ』(写真8)だ。この世界地図はデザイン界で注目され、2016年には、優れたデザインを顕彰する『グッドデザイン賞』の大賞にも選ばれた。
「オーサグラフがどのようにできているかを説明します。まず、地球を細長い三角形96個に分割します。形は少しずつ違っていて4種類。面積はどれも同じです。これを、球の中心に置いたサモサのような立体に投影(心射投影)します。サモサの96分の1領域に、球の96分の1領域が投影される。実はちょっとトリミング調整をするので、光学的な投影ではなく、正確には写像と言ったほうがいいですね。さらに、サモサの出っ張ったおなかの部分を正四面体の面に平行投影(正射投影)します。これも微調整を加えて、三角形が正四面体全体の96分の1になるようにしています。こうして2段階で地球を正四面体に変形させます。正四面体は、ハサミを入れて切り拓いた展開図が長方形になるので、これで長方形の世界地図が出来上がる」。
●医療と数理科学の間の翻訳者として
「たとえばMRIは物理現象、具体的には共鳴現象を用いていますので、磁場のかけ方によって、水が多い、脂肪が多いという物性が見えてきます。また、パルスのかけ方によって血流が速いところだけ光らせることもできます。最近ですと、がんや脳梗塞の診断に用いられる、『拡散強調画像』と呼ばれるブラウン運動が速い場所だけ光る画像が登場したり、脳の神経伝達の等方性を利用して、ベクトルを上手く繋いで脳神経を描き出す『テンソルイメージング』などもあります。これらがこの15年ぐらいで実用化されており、いろいろなものが見えるようになってきています」。
▶医療の現場で未解決であり、数学が必要とされていることがある。それは、時間経過とともの変わっていく変化のダイナミズム解析である。
▶このような問題の解決のためには、数理モデルの構築と統計科学的なデータ解析の融合が必要なのではないかと語る。