榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ホロコーストという極悪非道な犯罪に手を染めたナチスが、誰々はユダヤ人だと特定できたのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3392)】

【読書クラブ 本好きですか? 2024年7月26日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3392)

シオカラトンボの雄(写真1)をカメラに収めました。グラジオラス(写真2、3)、キキョウ(写真4)が咲いています。ブドウ(写真5、6)が実を付けています。今宵も、我が家のキッチンの曇りガラスにニホンヤモリ(写真7)が出勤。

閑話休題、ホロコーストという許し難い極悪非道な犯罪に手を染めたナチスが、誰々はユダヤ人だと特定できたのはなぜか。この謎に明快な答えを与えてくれたのが、『IBMとホロコースト――ナチスと手を結んだ大企業』(エドウィン・ブラック著、小川京子訳、宇京賴三監修、柏書房)です。

「(アドルフ・)ヒトラーが権力の座に就いたとき、ナチの主要な目標はドイツ国内に60万人いるユダヤ人を特定し、絶滅することであった。ナチの基準では、ユダヤ人とはユダヤ教信者だけを指すのではなく、ユダヤ系の血を引く者なら、どれだけ同化していようと、ドイツ人と結婚していようと、宗教的活動の状態がどうであろうと、さらにはキリスト教に改宗していようと、すべて含むのであった。まずはユダヤ人を発見し特定しないことには、資産没収、ゲットーへの封じ込め、強制移送、そして最終的には殲滅、といったこともできない。ドイツ全土で――そして後にはヨーロッパ全土で――共同体、教会、および政府の記録を何代にもわたって調べることは、膨大な相互参照作業となるため、コンピューターが必要であった。しかし1933年当時に、コンピューターは存在しなかった」。

「しかし、別の機械なら存在した。IBMのパンチカードとカード選別システム――コンピューターの先駆である。IBMは、主にドイツ子会社を通して、ヒトラーのユダヤ人絶滅計画を同社が追求する技術上の使命に重ね、恐ろしいほどの成功を収めた。ドイツIBMは、人種絶滅の自動機械化というかつて行われたことのないことを、自社のスタッフと設備を用いて設計・実行し、ヒトラーの第三帝国がそれを達成するのに必要不可欠であった技術的支援を提供したのである。2000台を超えるそのような機械がドイツ全土に出荷され、さらにヨーロッパのドイツ占領地域全域に数千台が出荷された。カード選別機システムがすべての主要強制収容所に確立された。人々はあちらこちらへ運ばれ、システマティックに死の強制労働に投じられ、死ぬとその遺体は冷酷な自動機械化システムにより番号を登録された」。

「IBMニューヨーク本社は、1933年にこの事業に着手した当初からずっと、取引の相手がナチ党上層部であることを承知していた。同社はそのナチ党とのコネクションを利用して、ドイツおよびナチ占領下のヨーロッパ各地において、ヒトラーの統治する第三帝国との取引関係を強め続けていったのである」。何と、IBM創始者、トーマス・J・ワトソンは、自ら進んで、何百万人もの生死に関わる事業の拡大に勇往邁進したのです。

本書は、「数百万人のナチ犠牲者が、ドイツあるいはその他の19のナチ占領国で、列車のプラットフォームに上がり、鉄道で2日か3日旅をし、アウシュヴィッツかトレブリンカのタラップに降り立つ。そして1時間後には、ガス室へと行進させられる。毎時間毎時間。毎日毎日。常に時刻表に沿って次々と。時計仕掛けのように、そして電撃的な効率で。これを可能にした、魔法のようにも思えるスケジュール作成のプロセスはいったい何だったのだろうか。生き残った人たちは決して知ることがなかった。解放のために闘った者たちは決して知ることがなかった。演説をした政治家たちも決して知ることがなかった。罪を追及した検事たちも決して知ることがなかった。議論を戦わせた者たちも決して知ることがなかった。その疑問がまともに問われることすらなかったのだ」と結ばれています。

衝撃的な、戦慄が走る一冊です。