榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

MRよ、ブルー・オーシャンを目指せ・・・【MRのための読書論(25)】

【Monthlyミクス 2008年1月号】 MRのための読者論(25)

未開拓市場の創出

ブルー・オーシャン戦略――競争のない世界を創造する』(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、ランダムハウス講談社)は、書店に溢れているビジネス書の範疇から大きく逸脱している。血みどろの戦いが繰り広げられているレッド・オーシャンでなく、競争のない青く澄み切ったブルー・オーシャンで泳げと主張しているからである。

これまで数々の「戦略」が持てはやされてきたが、ライヴァルと同じ市場で戦う限り、どれほど巧妙に戦略を練ったところでいずれ消耗戦を強いられる。著者は、この血まみれの戦いが繰り広げられる既存の市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」と呼び、競争自体を無意味なものにしてしまう未開拓の市場を「ブルー・オーシャン(青い海)」と名付けている。

QBハウスの大胆な発想

この書では、未知の市場空間を創造した企業・組織の実例が数多く示されているが、我々日本人に卑近なものとしてQBハウスの具体例を挙げておこう。QBハウスを見かけた人、利用している人も多いと思うが、QBハウスは日本の理容業界でブルー・オーシャンを創出し、アジア全域で急速な成長を遂げている。1996年に東京に第1号店を開き、現在の国内店舗数は369だが、毎月、出店を続けている。

QBハウス登場以前の男性のヘアカットは1時間かかり、料金は3000~5000円であった。多くの人々、特に働く人々はヘアカットにこのような時間、料金を費やしたくないはずだと考えたQBハウスは、髭剃り、洗髪、ドライヤーによる整髪などの作業を省き、散髪だけに絞った「10分、1000円」で勝負に打って出たのである。この理容革命をもたらした大胆な発想の転換は、カット後の髪の毛の屑を吸い取る「エア・ウォッシャー」(掃除機の応用)の導入に支えられていることを付記しておきたい。

常識を打ち破る発見

輝かしい未来を手に入れるためには、血だらけの競争から抜け出さなくてはならない。競合他社に打ち勝つ最高の方法は、既存の市場でライヴァルを負かすことではなく、競争相手のいない未知の新しい市場を切り拓くことだ。ブルー・オーシャン創造のために編み出された4つのアクション――業界標準と比べて、①取り除くべき要素は何か、②思い切り減らすべき要素は何か、③大胆に増やすべき要素は何か、④今後、付け加えるべき要素は何か――を活用することによって、これまでの常識を打ち破る新たな発見をすることができる。そして、4つのアクションを具体化して、①メリハリ、②高い独自性、③訴求力のあるキャッチフレーズ、を実現できるかがブルー・オーシャン戦略成功の鍵となる。

クロネコヤマトを創った男

「クロネコヤマトの宅急便」もブルー・オーシャン戦略の成功例と言えるだろう。当時、どこの運送会社も手掛けていなかった個人対象の宅急便を開発し、大きな市場に育て上げたヤマト運輸の苦難と栄光の軌跡は、その開発者の手に成る『小倉昌男 経営学』(小倉昌男著、日経BP社)で知ることができる。

自分の活動の全面的見直し

MRが個人のレベルでブルー・オーシャンを目指そうとする時、どうすればよいのか。先ず、上述の4つのアクションを用いて自分のMR活動を全面的に見直す必要がある。自分の周囲のMRが行っているMR活動と比較して、①今後、完全に中止すべき活動は何か、②止むを得ず行うにしても、必要最小限にとどめるべき活動は何か、③これまで以上に力を入れるべき活動は何か、④他のMRは誰も行っていないが、勇気を奮って自分が挑戦すべき活動は何か、がはっきりしたら、躊躇せず実行に移す。そして、④をアピールするための短くインパクトのあるキャッチフレーズを工夫する。もし、この戦略を実行してもうまくいかない時は、ためらうことなく手直しする。この点、一度定めた方針は転換しにくい企業と異なり、個人は小回りが利くから有利だ。ブルー・オーシャンで気持ちよく泳いでいる自分の姿を思い浮かべて頑張ろう。