榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

30代夫婦の田舎暮らし奮闘記は、滅法、面白い・・・【山椒読書論(733)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年8月28日号】 山椒読書論(733)

里山のシイナのほぼ片づけ日記』(里山のシイナ著、PHPエディターズ・グループ)は、30代の椎名啓太・望(のぞみ)夫妻の田舎暮らし奮闘記である。一言で言えば、滅法、面白い!

「この本は、ある30代の夫婦が、田舎の古民家を購入し、約1年半、前の住人の膨大な生活用品を、ただひたすらに、片づけていった記録です。・・・古民家再生のリアルを、赤裸々に投稿し続けたYouYube。作業記録として始めたこの活動を、多くの方に視聴していただきました。本活動が一段落した今、『片づけを続けてどうだったのか』を振り返り、境遇の重なる方へ、また僕らのように自分の住処(すみか)を探し、自ら作り上げていきたいと考えている方へ少しでもお役に立てるよう、そして、この奇妙な活動を、謎に続ける夫婦の日常に、クスッとしていただければ、嬉しく思います」。

「登場人物は、木工家具屋の実家で育ち、長年自分の居場所を探し続けた、車いじりが趣味の夫。大卒の元サラリーウーマンが、家を建てたくて建設業界へ転身し、ついには職人として、庭の世界に足を踏み入れた元都会育ちの妻。思うがままにぶらぶらしてきた夫婦が、何の変哲もない地味な片づけを、ただただこなしていく日々を、四季折々の表情を見せる里山風景とともに、気ままに過ごす生き物たちの姿を添えて、お届けします」。このような男女の組み合わせ、激しく老朽化した古民家の歴代の住人たちの積もり積もったゴミの山、そして、これらを大らかに取り囲む長野の自然ときては、面白くないわけがない。

とりわけ興味深いのは、自分たちで作ったバイオトイレ、途中で夫が力尽きた話、里山暮らしの可能性――に触れた件(くだり)である。

「妻は、僕と違って淡々と継続することが得意らしく、僕が休んでいる横で黙々と薪作りをしていました。なんとも頼りになる相棒です」。

「ここまで、地味な作業の繰り返しでしたが、自分たちの理想の暮らしを作り上げていく、そんな楽しさをもって取り組むだけで、一つひとつが貴重な思い出と経験になりました。正直、逃げたいと思うような場面にも出くわしましたが、乗り越えるたびに得られる達成感は心地よいものです。もう一度やるかと聞かれたら、絶対やりたくないのですが、片づけももう終わってしまうと思うと、妙に寂しいこの気持ちは一体何なのでしょう?(笑い) もしかしたら人生も同じようなものなのかもしれません。辛いこともたくさんあるけれど、正面から向き合って乗り越えて、かけがえのない経験として心に刻み込んでいく。あんな思いは、二度としたくないという感情も、経験したからこそ得られたのです。汚いところから目を背けていては、掃除はできず、綺麗になりませんよね」。これはもう、人生論の域に達しているではないか。

「里山暮らしを継続するには、これまで農業を生業(なりわい)とすることが常識だったと思います。しかし、長い間この国を支え、作付面積の半分以上を占める稲作は、いま厳しい状況に陥っています。僕たちは現在、主にYouTubeで収入を得ていますが、元々は木工家具作りをしながら、兼業農家として生活することを考えていました。本業で余裕を作りながら農業を営む。今までの常識からすると、道楽に見えるかもしれませんが、それでいいと思います。余裕がないと続かないことは、身をもって経験していますし、農業従事者が減っていることもそのあたりが原因ではないでしょうか。もっと兼業農家の幅が広がらないと難しいのではないかと思っています」。この正直さが、本署の魅力の一つとなっている。