榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「グレート トラバース」を見て、『日本百名山』を読みたくなった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(63)】

【amazon 『日本百名山』 カスタマーレビュー 2015年4月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(63)

近くの森の中で、シジュウカラの「ツツピーツツピー」、ウグイスの「ホーホケキョ」、キジバトの「ホーホーデポー」、コジュケイの「チョットコイ、チョットコイ」、キジの「ケーン、ケーン」などの鳴き声を耳にすることができました。上空を、8羽のオナガが「ゲェーイ、ゲェーイ」と濁った声を上げながら飛んでいきました。長い尾が重たげでした。小川ではアオサギが餌を探していました。森を抜けると、鮮やかな燃え上がるような赤が目に染みます。近づいてみると、ぎっしりと花をつけた小山のようなキリシマツツジでした。少し行くと、今度は白いヒラドツツジが広がっていました。時間に縛られず、爽やかな風を感じながら散策していると、心が伸び伸びと広がっていきます。因みに、本日の歩数は10,910でした。

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閑話休題、NHK・BSで放送中の「グレート トラバースーー日本百名山ひと筆書き踏破への道」は欠かさず見るようにしています。プロ・アドヴェンチャー・レーサーの田中陽希が、7か月かけて、深田久弥が選んだ百名山を一筆書きに南から北へと人力のみで踏破すべく果敢に挑むドキュメンタリーですが、私たち夫婦はすっかり田中のファンになってしまいました。

この番組の冒頭で、深田の『日本百名山』(深田久弥著、新潮文庫)の一節が紹介されるのですが、これが毎回、味のある名文なのです。そこで、ハイキング止まりで登山には縁のない私も、この本を読みたくなってしまったのです。

例えば、剣岳(2998m)は、こう書き出されています。「北アルプスの重鎮を穂高とすれば、北の俊英は剣(つるぎ)岳であろう。層々たる岩に鎧われて、その豪宕、峻烈、高邁の風格は、この両巨峰に相通じるものがある。大学山岳部が有能な後継者を育てるための夏期合宿、精鋭を誇るクライマーのクラブが困難なルートを求めて氷雪に挑む道場を、大ていはこの穂高か剣に選ぶのも故あるかなである」。

御嶽(3063m)は、こんなふうです。「普通御嶽(おんたけ)は日本アルプスの中に入れられるが、この山は別格である。そういうカテゴリーからはみ出している。北だの、中央だの、南だのと、アルプスは混みあっているね、そんな仲間入りは御免だよ、といいたげに悠然と孤立している。たしかにこのヴォリュームのある山は、それだけで一王国を形成している」。2014年9月27日の噴火の3カ月半前に山頂に立った田中は、番組の中で犠牲者を心から悼んでいましたが、山の恐ろしい一面を思い知らされた私たちも複雑な気持ちにならざるを得ません。

仙丈岳(3033m)は、こう記載されています。「私の好みで、日本アルプスで好きな山は北では鹿島槍、南では仙丈(せんじょう)である。何よりその姿がよい。単純なピラミッドでもなければ鈍重な容量(マッス)でもない。その姿に軽薄や遅鈍のないところが好きなのである、スッキリとして品がある。ちょっと見ては気づかないが、しばしば眺めているうちに、次第にそのよさがわかってくるといった山である」。

白山(2702m)の個所では、「日本人は大ていふるさとの山を持っている。山の大小遠近はあっても、ふるさとの守護神のような山を持っている。そしてその山を眺めながら育ち、成人してふるさとを離れても、その山の姿は心に残っている。どんなに世相が変っても、その山だけは昔のままで、あたたかく帰郷の人を迎えてくれる」と語っています。

深田は、自分自身が山頂を極めた数百の山の中から、山の品格、山の歴史、そして個性のある山という3つの基準で百名山を選んだと述べていますが、山を愛する気持ちがひしひしと伝わってきます。