榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

時代小説を通して川を考察しようというユニークな試み・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2288)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年7月18日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2288)

女房が、アゲハチョウ(写真1)がアジサイに止まったわよ、と言うので、慌てて読みかけの新聞を置いて、カメラを手にしました。キタキチョウ(写真2)、コガタスズメバチ(写真3)、カタツムリ(写真4、5)、ニホンカナヘビ(写真6)、笠の長径が17cmほどあるキノコ(写真7、8)をカメラに収めました。毎日10,000歩以上散策することを心がけている私にとって、ウォーキング・シューズは大切な相棒です。このほど下ろした「ニューバランス MW685B6」は幅が広くフィット感が絶妙で、しかも超軽量なので、私の目標は軽く達成できそうです。

閑話休題、『日本の川 読み歩き――百冊の時代小説で楽しむ』(岡村直樹著、天夢人)は、時代小説を通して川を考察しようというユニークな試みです。

とりわけ印象深いのは、「川から生きる力をもらう」の章で取り上げられている『孤愁の岸』、『加藤清正』、『家康、江戸を建てる』の3冊です。

●杉本苑子著『孤愁の岸』――木曽三川、そして幕府の横暴と戦った平田靱負(ゆきえ)
「宝暦3(1753)年、徳川幕府は木曽三川と呼ばれる木曽川、長良川、揖斐川の分流工事を薩摩藩に命じた。世にいう宝暦治水である。幕府にとって、薩摩藩はもっとも警戒を要する外様藩である。巨額の出費を強いて、薩摩藩の藩庫を傾けてしまおうとのねらいだ。狼狽した薩摩藩であったが、責任者に家老の平田靱負を任じ、家臣多数をつけて現地に派遣。工事は翌4年2月に始まり、5年3月に竣工した。藩士で自刃する者50余名、病死を含めると80名ほどの犠牲者を出し、総工費は当初の見積もりをはるかに上回る40万両に達した。責任を一身に背負って、平田は自害して果てた。苦闘、また苦闘の難工事を迫真の筆致で描いたのが、杉本苑子の『孤愁の岸』である」。

●海音寺潮五郎著『加藤清正』――戦国時代を駆け抜けた闘将の土木遺産
「加藤清正の名を聞くと、賤ケ岳の七本槍、豊臣秀吉による朝鮮の役における虎退治、あるいは朝鮮・蔚山城の籠城戦などが思い浮かび、猛々しい武将というイメージが先行する。果たして、そうか。海音寺潮五郎の『加藤清正』をひもといてみることにしよう。猛将という印象を形づくった数々のエピソードが盛られていることは確かだが、作者は真偽のほどを厳しく弁別することを忘れず、清正の真骨頂は、民政家としての手腕にあるとの立場を表明する。清正は、肥後国(熊本県)で52万石を領したが、23年間の治政のうち、文禄・慶長の役で7年間にわたって朝鮮に出兵している。差し引き16年の間に、領内の治水、灌漑、干拓面で成し遂げた成果は瞠目すべきものがある」。

●門井慶喜著『家康、江戸を建てる』――伊奈家三代が成し遂げた利根川東遷大事業
「天正18(1590)年、小田原の北条氏を降した豊臣秀吉は、参陣していた徳川家康に、これまで領国から関東のハ州へ移るよう促した。秀吉の真意は、湿地ばかりが広がる土地と、豊饒な三河国(愛知県東部)、遠江国(静岡県西部)、駿河国(静岡県中部ほか)、甲斐国(山梨県)、信濃国(長野県)の5カ国を交換させることであった。家臣団の強硬な反対を押し切って、家康は秀吉のゴリ押しを受け入れて江戸に入った。京畿から遠い僻遠の地に追いやられて、天下人たる秀吉に対抗することはできるのか。成算があったのかどうか、ただちに家康は国づくりに取りかかった。門井慶喜『家康、江戸を建てる』は、来るべき天下制覇に向けて、まったく新しい町を江戸に開くための家康の工夫をつづっていく。・・・第1話『流れを変える』は、いわゆる『利根川東遷事業』を扱っている」。30年間、伊奈家3代、4人の当主に引き継がれた大事業です。

川の多面性に気づかせてくれる一冊です。