榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

現代に生きるアメリカの黒人女性が、奴隷制盛んなりし19世紀初頭にタイム・トラヴェルしたら、どうなるか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2473)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年1月24日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2473)

シロハラ(写真1、2)、ヒヨドリ(写真3)、モズ(写真4)、シジュウカラ(写真5)、アオジの雌(写真6)、メジロ(写真7)、キジバト(写真8)、カルガモとマガモ(写真9、10)、マガモの雄(写真11)をカメラに収めました。節分の豆は撒かずにポリポリ食べるようにしています。私の心の中の鬼を退治するためです(笑)。

閑話休題、現代に生きるアメリカの黒人女性が、奴隷制盛んなりし19世紀初頭にタイム・トラヴェルしたら、どうなるか――を描いたのが、小説『キンドレッド』(オクテイヴィア・バトラー著、風呂本惇子・岡地尚弘訳、河出文庫)です。

米国カリフォルニア州のロサンジェルス近郊に住む26歳の黒人女性デイナは、自分が、1815年時点の、メリーランド州のボルチモア近郊にタイム・トラヴェルしていることに気づきます。そこで、自分の先祖たちに出会うという不思議な体験をします。そして、奴隷という理不尽かつ苛酷な境遇を、たっぷり思い知らされます。

「(主人の)ルーファスの父親が馬と同じように『黒ん坊』にも鞭を使う理由もわかった」。

「夜中に馬に乗ってやって来て、ドアを押し破って入り、殴ったり、その他の方法で黒人を苦しめる白人たちの名前。パトロール。表面上は奴隷たちの秩序維持に努めた白人の若者たちの集団、パトロール。クー・クラックス・クランの先駆者たちだ。(裸で木にくくりつけられ激しく鞭打たれていた黒人の)男の叫び声が止まった。しばらくして目を上げると、パトローラーたちが彼をほどいているのが見えた。縄がはずされても彼は木にもたれたままであった。やがてパトロールの一人が彼を木から引き離し、両手を体の前で縛った。それから縄の端を握ったままそのパトローラーは馬に乗り、後ろに捕虜を半ば引きずるようにして行ってしまった。・・・馬に乗って仲間を追う前にその男は(黒人)女の顔を殴ったのである。さっき夫の方が殴られたのとまったく同じやり方であった」。

「奴隷小屋に呼びつけられ、(主人の)ウェイリンが口答えをした農場奴隷を罰するところを見させられた。ウェイリンの命令でその男は裸にされ、枯れ木の幹に縛りつけられた。・・・突如、彼は奴隷の背中に鞭を振り下ろした。奴隷の体がぎくりと動き、縛った縄に逆らって硬直した。・・・鞭は重くて、少なくとも6フィートほどの長さがあり、私だったらどんな生き物にもとても使う気にならないだろう。一打ちごとに血と叫び声を産む。・・・私たち全員にその鞭打ちを見ているよう命令していた――奴隷たち全員に」。

「『昨夜はどこで寝たの?』。彼女(女主人のマーガレット・ウェイリン)は奴隷専用に使うきーきーと責めたてる声で詰問した。・・・マーガレットは私の顔に平手打ちをくれた。・・・『おまえの居場所の奴隷小屋へ行かせてやるから!』」。

「彼女(奴隷頭のサラ)は声を抑えてささやいた。『あんたは捕まって連れ戻された黒ん坊を見る必要があるね。そうだよ、飢えて、裸にされて、鞭打たれて、引きずられて、犬に噛まれた黒ん坊を・・・そういうのを見ておく必要がある』」。

「『おまえには、農場奴隷にあるような大きな深い傷はないな』と彼(ルーファス)は言った」。

「『やつらは耳を切り落としたんだよ」。私は飛び上がった。『(奴隷の)アイザックの?』。『そうだ。両耳ともだ。アイザックは暴れたよ』。『やつらはアイザックをミシシッピーの奴隷商人に売ったとルーファスが言ってたけど』。『その通りだ。散々痛めつけてからね。やつらがどんなふうに切り刻んだり殴ったりしたか(奴隷の)ナイジェルが教えてくれたよ』』。

「『あいつらは私を殴った』と彼女(奴隷のアリス)はささやいた。『犬、それに縄・・・あいつらは私を馬の後ろにくくりつけた。私は走らねばならなかった。でもできなくって・・・それから私を殴ったんだ』」。

「彼(ルーファス)はつぶやいた。『おまえは動物も同然だってことがわからないのか!』」。

「彼らは私を納屋へ連れて行き、手を縛り、なんだかわからないがその手をくくりつけたものを頭上に高く持ち上げた。ほとんど爪先が床につかないところまで引き上げると、ウェイリンは私の服を裂き、打ち始めた。彼に打たれた私は手首のところで吊るされてぶらぶら揺れ、痛さで半分気が狂ったようになり、足場もつかめず、吊るされている重みに耐えることができず、絶え間なくふりかかる鞭から身をかわすこともできなかった」。

「前の主人に、ものを書いているところを見つかって、右手の指を3本切り取られた(奴隷)女がウェイリンのプランテーションにいた」。

「白人が1人、馬に乗って、24人の黒人を2人ずつ鎖で繋いで引き連れていた。鎖に繋いで。彼らは手錠を掛けられ、首には鉄の輪を巻かれ、その輪には鎖がついていて、その鎖は2列になった黒人の間にある真ん中の鎖に繋がれていた。男たちの後ろに、数人の女が首と首をロープで一緒に縛られ歩いていた。売りに出される奴隷たちだ」。

自分も奴隷にされたかのような恐怖に襲われてしまうほど、臨場感に溢れた作品です。