榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

文学、芸術、歴史について考えるヒントを与えてくれる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2510)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月2日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2510)

一直線に射し込んできた朝日に目が眩みました(写真1)。アケボノアセビ(写真2、3)、シダレウメ(写真4)が咲いています。ジンチョウゲ(写真5~7)が咲き始めました。カンヒザクラ(ヒカンザクラ。写真8~10)が蕾を付けています。我が家の庭に毎日やって来るメジロ(写真11~13)をカメラに収めました。

閑話休題、『人文学のレッスン――文学・芸術・歴史』(小森謙一郎・戸塚学・北村紗衣編著、水声社)は、文学、芸術、歴史について考えるヒントを与えてくれる一冊です。

●文学
「重要なのは、物語の流れに身を任せるのではなく、言葉の前で立ち止まって問い直すという態度そのものです。本書の冒頭で引いた夏目漱石『門』の宗助は、文字というものが『紙の上へちやんと書いて見て、ぢつと眺めてゐると、何だか違つた様な気がする』といいましたが、人文学的な読みの出発点は、結局のところ意味や物語がいったん解体してしまうほどに言葉と向き合ってみること、その一点にあるように思われます」。

「文学はそれ自体としては人の命を救うことはできないかもしれませんが、言語として表現されたものに命を吹き込む、そうした営みなのです。およそ百年前の小説のテクストに、しずくとなってしたたり落ちる命の鼓動のいくばくかを今なお感じるのであれば、それこそがまさに文学を読む意義なのではないでしょうか」。

●芸術
「16世紀末から17世紀初頭のロンドンで活躍した劇作家ウィリアム・シェイクスピアの恋愛喜劇に『お気に召すまま』という作品があります。今、私は『喜劇』と書きましたが、シェイクスピアが書いたのはお芝居と詩で、小説は書いていません。シェイクスピアが活躍した時代は識字率が低く、近代小説は発達していなかったので、文字が読めない人も楽しめるお芝居は一大娯楽でした」。

「演劇の醍醐味の一つは、人間の肉体について新しい見方を提供してくれることです。役者の肉体について考えることは、見ている我々自身の肉体や性について考えることにつながります。性別とはどうやって作られるのか? 美しさとはどこから来るのか? 肉体をコントロールするとはどういうことか? こうしたことを、是非演劇を通して考えてみてほしいと思います」。この論者が薦める『シェイクスピア――人生劇場の達人』(河合祥一郎著)を読みたくなってしまいました。

●歴史
「時として周りくどく、またある時は直截に、またある時は粘り強くと言った形で、多角的、複層的に対象を捉えることで、『わかってくるもの』、『見えてくるもの』があるのだということを、ちょっぴりお伝えできたのではないでしょうか。とすれば、この小文の『ねらい』はごくささやかにであれ、成功したのかもしれません。ある意味、そうしたやり方で『自分だけの』――これまで誰にも見つけられなかったという意味で――回答に接近して行くのが、歴史学の、ひいては人文学の醍醐味と言って良いと思うからです。お手軽に『正解』を手に入れたい人たちには、面倒臭く、地味な手法に見えるかもしれませんが、『自分だけの回答=新しい発見』を手にしたカタルシスには捨てがたいものがあります。また、気がつくと自分なりの思考スタイルが身についているという点で、なかなかお得な手法でもあります」。