榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

生物多様性の問題は一筋縄ではいかないことを思い知らされた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2624)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月23日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2624)

ヤブカンゾウ(写真1~3)、マンデヴィラ‘ローズ・ジャイアント’(写真4)、ノウゼンカズラ(写真5)、アメリカノウゼンカズラ(写真6)、ムクゲ(写真7)、アガパンサス(写真8~11)、アナベル(写真12、13)が咲いています。

閑話休題、『生物多様性を考える』(池田清彦著、中公選書)は、生物多様性や外来種排除を声高に主張する動きには批判的です。

「一般に生物多様性には、種多様性、遺伝的多様性、生態系的多様性の3つのカテゴリーが含まれるとされるが、その内実はあいまいで、多様性というコトバだけが一人歩きをしているように思われる。生物多様性の根幹を成すのは種であるが、生物多様性に関する論議の多くは、種に対する深い洞察なしに行われていることが普通だ。生物多様性という標語が利権擁護のための錦の御旗として使われる一方で、隔靴掻痒の観があるのは、その辺りに問題があるためだと思われる」。

「生物多様性の保全に関わる問題も議論したい。すべての営為にはメリットとデメリットがあり、生物多様性の保全についても例外ではない。生物多様性の保全という名目で行われる政策の中には、コストの割には成果が上がらないものも多い。あるいは、生物多様性を守ると称して、実は生物多様性の保全に逆行しているようなものもある」。

具体的な事例として興味深いのは、「野生のトキを復活させる。これはすばらしいことなのか」、「アカボシゴマダラの場合」、「今まで在来種とされていたクサガメ」です。

●トキ
「(日本のトキは2003年に絶滅したが)その後日本は中国から中国産のトキを譲り受けて人工的に繁殖させ、2008年に佐渡に放した。佐渡の空に27年ぶりにトキが舞ったのである。日本のマスコミはこの試みを絶賛したが、これは無条件にすばらしいことなのだろうか。かつてトキが棲んでいた佐渡の生態系は、27年間、トキがいないという条件の下で存続してきた。そこに人為的にトキが放たれれば、現在のこの生態系にとっては、人為的な外来種が入ってきたのと同じことだ。実際、放鳥されたトキが新種と思われるカエルを食べていたとの報告もある。放鳥されたトキが増殖して佐渡の空に群れをなして飛ぶようになったとしても、生態系は、かつてトキが飛んでいた数十年前の生態系に戻るわけではない。・・・野生絶滅した種を元の野に放つ試みは、メリットばかりでなくデメリットもあるわけで、費用がほとんどかからないならばともかく、膨大な税金を注ぎ込んでまでやる価値があるかどうかはよく考えた方がよいのだ。野生絶滅した種は動物園の中でしか見られなくても、まあよいのではないかと私は思う」。

●アカボシゴマダラ
「アカボシゴマダラは1998年に神奈川県藤沢市で繁殖が確認されたのを嚆矢とし、近年関東一円に分布を拡大した。日本の奄美大島にも産するが、人為的に導入されたものは大陸産のもので、食樹はエノキで同じエノキを食べるゴマダラチョウとの競合が心配されている。しかしながら、この2つの蝶によって絶滅させられそうな在来種は今のところいないので、競合する蝶の個体数が多少減少するにしてもあまり心配する必要はなさそうだ」。

●クサガメ
「最近、今まで在来種とされていたクサガメが実は18世紀の後半に朝鮮からもち込まれたらしい、とDNAの解析から判明したようだ。クサガメはニホンイシガメと交雑を起こしており交雑個体にも生殖能があるという。まさか、昨日までは在来生物だと思って大事にしていたのに、外来生物と判明した途端に駆除しようというわけではないでしょうね。はっきり言って本土に侵入している外来生物の多くは現在の生態系に対して大きな影響を与えていない。昔のことを知らなければ、何が在来生物か何が外来生物かは分からないわけで、野外で懸命に生きている生物に対して、在来生物だの外来生物だのというレッテル貼りをして、外来生物を選択的に殺すというのはいかがなものかと思う」。

生物多様性の問題は一筋縄ではいかないことを思い知らされました。