榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ゴッホが自ら切り落とした耳を女性に贈ったのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2902)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年3月28日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2902)

オウバイ(写真1)、オウバイモドキ(ウンナンオウバイ。写真2)、シナレンギョウ(写真3、4)、グレヴィレア‘プーリンダ・クウィーン’(写真5)、ミツバツツジ(写真6、7)、ミツバアケビ(写真8)、ホトケノザ(写真9、10)が咲いています。我が家では、遅蒔きながら、モクレン(シモクレン。写真11)が咲き始めました。我が家の庭師(女房)から、シバザクラ(写真12)、タチツボスミレ(写真13)が咲いていると報告あり。

閑話休題、『ゴッホの耳――天才画家 最大の謎』(バーナデット・マーフィー著、山田美明訳、早川書房)は、著者バーナデット・マーフィーが抱いた疑問――●フィンセント・ファン・ゴッホが自ら切り落としたのは片耳全体だったのか、それとも耳たぶだけだったのか、●その切り落とした耳を贈られた謎の女性・ラシェルとは何者なのか、●ゴッホが37歳で自殺した背景に何があったのか――を解くべく、挑戦した記録です。

●ゴッホが自ら切り落としたのは片耳全体だったのか、それとも耳たぶだけだったのか
「フェリックス・レーはアルルの医師で、1888年12月24日にゴッホが病院に連れていかれたときに、最初に治療を担当した人物である。・・・(1930年8月、アルルのレーを訪れたアメリカの作家アーヴィング・)ストーンは、話を聞くだけでは満足せず、レーにゴッホの耳の状態を図示してくれるよう頼んだ。するとレーは、処方箋用紙から1枚を引きはがし、黒インクのペンで手早く2つの略図を描いた。事件の前と後のゴッホの耳の絵である。第1の図の説明には『点線に沿ってかみそりで耳をそぎ落とした』、第2の図の説明には『耳たぶの一部だけが残った』とある」。

●切り落とした耳を贈られた謎の女性・ラシェルとは何者なのか
「ゴッホは生涯を通じて、貧しい人、苦しんでいる人、困窮している人に思いを寄せ、彼らを救えるのは自分だけだと信じていた」。

「ガブリエルという名前は、フランス語ではラシェルと響きが似ている。この場合も、発音が誤って伝えられたのではないだろうか?」。

「『ラシェル』、いやガブリエルは結婚前、夜は娼館の小間使いとして働き(娼婦ではない!)、早朝にはラマルティーヌ広場にある店舗の掃除をしていた。近隣同士は顔見知りで、結びつきが強い。ゴッホはほぼ毎日、彼女を見ていたことだろう。・・・(狂犬病に感染している犬にかまれ、アルルの衣装を着ていてもはっきりと見える大きな傷を負ったため、ゴッホが同情を寄せていた)彼女に自分の体の一部をプレゼントするという行為は、この女性に対する心からの思いやりと優しさから生まれたのだろう。もちろんこの行為は、異常な精神状態に導かれたものだが、だからといってその気高さが損なわれるわけではない」。

●ゴッホが37歳で自殺した背景に何があったのか
「ゴッホは、ある種のてんかんを患い、それに統合失調症か双極性障害が結びついていた可能性がきわめて高い」。

「ゴッホがパリに来ている間に口論があったらしい。ゴッホがフランス語だけで話をしようと言いだし、家族で言い争いになったのだ。『兄を切り捨てることはできない』という(弟)テオの言葉や、『何か言いすぎたのでしょうか?』という(テオの新妻)ヨーの言葉から、口論はお金の話に及んだと推測される。妻帯して支えるべき家族が増えたテオは、これまでのようにゴッホの生活費を提供していくことができなくなったのかもしれない。そうだとすればこの知らせは、精神的にもろく、動揺しがちなゴッホには大きな打撃となったことだろう。1890年7月27日日曜日、ゴッホは銃で自分の胸を撃った。・・・ゴッホは1890年7月29日の午前1時30分、この銃創が原因で死亡した。『最後までパイプを手放すことを拒み、たばこを吸いながら、自分は意図的にこのような行為に及んだのであり、そのときの自分は完全に正気だったと語った』という」。

地道な調査を積み重ねた著者の主張は、説得力があります。