榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

昔の人々がトマトにいかに恐怖を抱いていたか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3543)】

【読書の森 2024年12月17日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3543)

メジロ(写真1)、アオジの雌(写真2)、カワラヒワ(写真3、4)、ヒヨドリ(写真5)、ハシボソガラス(写真6)、ハシブトガラス(写真7)、ハシビロガモの雄と雌(写真8)、雄(写真9)、オナガガモの雄(写真10)、オオバン(写真11)、コサギとアオサギ(写真12)をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は14,424でした。

閑話休題、『ライ麦はもともと小麦に間違えられた雑草だった――食材と人類のウィンウィンな関係』(ビル・フランソワ著、河合隼雄・山本知子訳、光文社)は、さまざまな食材についての科学的知見と歴史的エピソードが綴られたエッセイ集です。

とりわけ興味深いのは、●ライ麦はもともと小麦に間違えられた雑草だった、●昔の人々がトマトにいかに恐怖を抱いていたか、●毛沢東のスズメ駆除キャンペーンがどういう結末を招いたか――の3つです。

●ライ麦
小麦が栽培され始めた当初、ライ麦は「雑草」だった。ライ麦はより大きな粒を実らせる方向に進化し、小麦にますます似ていき、収穫の際に小麦に紛れ込む確率を高めていった。ライ麦は美味しくて寒さにも強いと気がつく人間も出てきた。こうして、ライ麦自体の栽培が始まった。北欧では、ライ麦が小麦から覇権を奪ったほどだ。今日、ライ麦は南極大陸を除く全ての大陸で栽培されている。当初、好ましくない雑草だったエンバク(オーツ麦。オートミールの原料)もライ麦と同じ歴史を辿ってきた。

●トマト
ヨーロッパで暮らす人々にとって、ナス科の植物は、当初は、皇帝の毒殺や魔法の薬の調合にうってつけの不吉な植物の仲間にすぎなかった。コンキスタドール(16世紀に中南米を征服・探検・植民地経営などを行ったスペイン人)によってアステカ帝国から盗まれたトマトがヨーロッパに上陸すると、そのトマトがパニックを引き起こした。ナス科の植物である以上、トマトもまた毒を持つと考えられたのだ。誰も味わってみようとはしなかった。あらゆる植物学者がこの「悪魔の果実」を一度も食べてみたことがないにも拘わらず、悪者扱いしたのだ。一方、農民たちはラテン語で書かれた学者たちの書物を読むことができなかった。農民たちは船乗りたちから、新世界の人々がこの果実に夢中だと聞かされていた。料理人たちもこの果実を食卓に取り入れていた。トマトが偏見を振り払うことができたのは、こうした人々のおかげである。トマトは3世紀に亘って恐れられた後、ヨーロッパを制覇し、わずか数十年のうちにフランス人のお気に入りの野菜となった。

●スズメ
1850年代の中国では、毛沢東が全国的なスズメ駆除キャンペーンを命じた。人民の穀物の略奪者だと非難するプロパガンダによって、何百万羽ものスズメが殺されたのだ。スズメがいなくなるとすぐにイナゴが大繁殖し、農業に大打撃を与えた。パニックに陥った独裁者は方向転換を余儀なくされ、再びスズメが増えることを期待してロシアから数十万羽のスズメを輸入したという。しかし、手遅れだった。この大惨事は、他の悲惨な農業政策と相俟って酷い飢饉を引き起こした。

本書は、このように人に教えたくなるエピソードがてんこ盛りです。