高校2年の時、女子更衣室をのぞいたことを本人に会って謝罪したいという75歳の男の終活・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3626)】
【読書の森 2025年3月10日号】
情熱的読書人間のないしょ話(3626)
『迷惑な終活』(内館牧子著、講談社)は、75歳の原英太が素っ頓狂な終活を思い立つところから幕が上がります。
「終活とは、生きてるうちに人生にケリをつけることだ」と、新潟の高校2年の時、学校中の男子に一番人気があった、一番きれいで、性格も優しくて控えめな同級生の向山(むこうやま)あかねに会って謝罪したいというのです。
女子更衣室で「ちょうどブラジャーひとつになってたんだよ、あかね。すげえ胸があってさ・・・。あの清純な細い首なのに、谷間がすげえの。それで黒いパンティっつうか、はいてて」。英太に誘われ一緒にのぞきをしたヨコタが興奮の余り、翌朝全部しゃべってしまったため、居づらくなったあかねが福岡に転校してしまったという過去があったのです。
漸くあかねの現住所を突き止め、英太はあかねに会うことができたのだが、思いもかけぬ展開が!
こういうストーリーになると、俄然、内館牧子の筆は冴え渡ります。
あかねの終活、英太の若き単身赴任時代の不倫相手の終活、英太の妻の終活、英太の優秀な弟夫婦の終活、落語が趣味の英太の同級生の終活も、どうしてどうして、一筋縄ではいきません。
不倫相手の「男の真価は、その妻を見ればわかる。選んだのはこの女か。女が良きにせよ、悪しきにせよ、男の考え方やレベルが見えてくる」という言い分に、妙に共感を覚えてしまいました。
これは、ユーモア小説の仮面を被った、私たち読者に終活問題を考えさせようと巧みに練られた社会小説と言えるでしょう。